ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語
229ページに記載の主な参考資料のうち、デイヴィッド・ベネターの『生まれてこないほうが良かったー存在してしまうことの害悪』、The Real Argument Blog「アンチナタリズムFAQ-よくある質問と返答」を読んだことがあります。また同じく参考資料として挙げられている『改訂版 なぜ意識は実在しないのか』の作者、永井均先生の違う本を何冊か読んだことがあります。このような状態で本作を読んで思うことは、「あれ、どこかで見たことあるような論理展開/言葉選びだな」ということです。参考資料の一覧を見て、やっぱり、と思いました。 本書に記載されている概念、論理構成、主張は、参考資料に記載されているものとほとんど同内容だと思います。この本の価値は、それらをわかりやすく噛み砕いて説明した点にあるというのなら、これは小説ではなく解説書です。解説書ならば、出典は明記しなればならないと思います。どこからどこまでが他人の思想や主張で、どこからどこまでがそれに対する引用者の解釈で、どこからどこまでが引用者自身の思想や主張なのか、見分けられるように書かなければ、剽窃です。引用の作法がまるでなっておらず、一見しただけでは全て著者が発見した思想や論理展開のように読めます。著者は、本書の225ページから226ページのあとがきにおいて、ベネターの仕事を道徳から反出生主義が生じうると明らかにしたこととし、それについて「すごい転換ではないでしょうか」と評価していますが、この本を読んだ人は、この評価をベネターではなく著者にする可能性が非常に高いと思います。
あくまでもこれは小説だと主張されたとしても、本作に文学的な表現はないと思います。そもそも登場人物の会話劇・議論という形式自体、元ネタであるベネターの著作で採用されているArgumentative Essayの型と本質的には同一であって、小説として再構成されているとは言い難いと感じました。
あとがきの225ページにおいて「『この"噛み合わなさ"ごと含めて、反出生主義を考えることができないだろうか』」「議論が錯綜するところに「反出生主義」の特殊な旨味がある気がした」と記載されていますが、この試みは単純に失敗していると思います。正直、ものすごくよく噛み合った会話劇になっていて、とても読みやすい本でした。細かな章立てやタイトルによって、議論が錯綜しているというよりむしろ整理されていると感じました。そうなると本書に残る独自性や新規性は、参考資料のわかりやすい言い換えでしかないということです。
解説本を否定しているわけではありません。しかし「小説」と銘打ち、帯には「どう滅ぼすかみんなで一緒に考えよう」(実際はどう滅ぼすかではなく、なぜ滅ぼすべきかという反出生主義そのものの解説に終始している)と大きくかかれ、適切な引用がされていない(この点が最も問題だと思います)状態で解説本を出すべきではないと思います。
非常に高評価が多いですが、この状態で出版したこと自体問題であると思います。道徳的でない本です。
久々にワロタ
参考になった
実際読み切ったあと『生まれて~』の目次を一目見ただけでかなり大筋を変えずに持ってきていることがすぐにわかる感じだった
以下、『生まれて~』を原著と表記(迫真)
アート無罪ならぬ小説無罪
本作に文学的な表現はないと思います。
これは棄却されそう(もし訴訟された場合)
ぼちぼちセリフの妙は存在するし、後述するがめっちゃいい表現がある
参考資料として記載されている13冊(うち半数以上が哲学書)の内容から恣意的に構成(コンポジット)しているとすればなんなら積極的に創作性を認められる
あとがきの225ページにおいて「『この"噛み合わなさ"ごと含めて、反出生主義を考えることができないだろうか』」「議論が錯綜するところに「反出生主義」の特殊な旨味がある気がした」と記載されていますが、この試みは単純に失敗していると思います。
罵りと本筋に関係ない部分を除くと8割は「ものすごくよく噛み合った会話劇」で間違いないが、その2割+αは原著に無いのも事実だ
議論する登場人物の8割が作中唯一の一貫した反出生主義者の思想それ自体には最後まで賛同しない
話者が次々に入れ替わる10人の議論という時点で達成されている?
いや、そもそも噛み合わない議論を目指しましたって間接的にも言ってないわ
道徳的でない本です。
かっこつけた
格好をつけている
横書きなの最初一瞬だけキモかったけど、読後は正直すべての本を横書きで読みたくなった
writing-modeの初期値はhorizonal-tbだから
原著より圧倒的にわかりやすく、反出生主義のトピックの理解に頼もしい助けとなる良い本ですcovelto.icon
明確なある思想が割り振られた10人の登場人物が議論するため、感情移入が必要な方でも楽しめる確率が高いと考えられる
10人には色の名前が振られており、読み終わった後には「僕はブルーかな」「私はブラック!」などスーパー戦隊ごっこのような遊びもできる
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ゴールド寄りレッド くらいが1番男の子は好きだもんね
最も好きなシーンは、終盤の「魔王」と「グレー」の会話のさらに終盤
基本的に人間同士の議論をしてゆくこの物語の中ではイレギュラーな場面
(エゴイストというより)実存主義者のグレーが、自分の立場を魔王に直接説明し、議論の末に魔王が理解し自分の態度に取り入れる
魔王:ああ……貴様とはなして、ようやく、あらためて理解できた。いま我がかんじている「これ」だけが本物であると。(中略)だが、よいのか?貴様がこんなことをいったせいで、我はいま「道徳的にわるい、しかし最善のいきかた」の可能性をしってしまったわけだ。(中略)
グレー:たしかに。でも、なんだろう。なんかうれしい感じがする。あーあ。ボクもエゴイスト失格だな。
このあとすぐ魔王は世界を滅ぼす
これ端的に模倣子の伝達/複製の力が"セカイ"の存続や死への恐れのそれを上回っている表現に読める